多摩地区の6m

6mを楽しむ上で、ぜひ理解してほしいことが電波の伝わり方、伝搬(でんぱん)です。 電波は見えませんが、どの様に伝わっていくか想像してみましょう。 伝搬を意識をするだけで、電波の飛ばし方が変わってきます。 すると交信できる範囲が広がり、運用する楽しさが広がります。

6mは、HFの様に電離層による反射がいつも利用できるわけではありません。 144MHzや430MHzの様な反射や回折が顕著でもない『中途半端』な周波数です。 そのため複雑な伝搬が生じ、コンディションが激しく変化するのが6mの大きな特徴です。 コンディションを把握して、適切な伝搬による通信が行えれば、6mをますます楽しむことができるはずです。

多摩地区の地形と地表波の伝わり方.

直接波

6mの基本的は直接波です。 直接波は見通し距離の伝搬となりますので、運用する地点周辺の地形を理解する必要があります。 もし近くに景色を遮る山や丘があると、電波はその反対側に直接波では伝わりません。

中央線に乗って、車窓からの見える景色を観察してみましょう。 だいたい東西に分けると、東側は関東平野が広がり、西側は秩父、西多摩、丹沢と山々が続きます。 このことから長野県や山梨県、静岡県方面は見渡すことができないため、直接波による通信は成り立たないことが分ります。

多摩川南岸の多摩丘陵から北側を眺めてみましょう。 空気が澄んだ日には、上越や日光の山が見えます。 多摩地区の高層階の建物からも、同様の景色が広がります。 直接波は見通し距離とほぼ同じとすると、6mは標高が高い場所ならば遠くまで伝わります。 それを求めて、移動運用が盛んというのも理解できます。

6mの直接波で伝わる距離は、多摩地区ではだいたい100kmと考えます。 これは多摩地区の位置と関東平野の分布から言えることです。 もちろんアンテナの利得によっても異なりますが、運用する場所で電波の伝わる範囲が大きく変わることを理解してください。

反射、屈折、回折

西側に山が連なる多摩地区から、直接波で山梨県や静岡県の局と交信できないことは理解できます。 それでも多摩西部の山の向うと交信できてしまうのは、山の反射などによって複雑に電波が伝わるからです。 直接波と比べると信号が弱めに感じると思いますが、これは山で反射することで電波が弱くなってくる減衰が起こるからです。 多摩地区で一番高い雲取山付近の先にある長野県北部や、南アルプスの向うにある長野県南部の局は、高い山を越えてくるためさらに電波が弱くなります。

中央線に乗って西に向かうと、立川辺りまで行くと奥多摩の山が大きく見えます。 多摩の東端である吉祥寺と西荻窪の中間あたりから見た山と明らかに大きさが違います。 経験から得た話ですが、どうやら電波の屈折や回折は山の上部を狙うことで山の向うに伝わり、山の中腹を狙うことに反射するようです。 このことから言えることは、6mでは打ち上げ角(上空に飛ぶ角度)は無視できないということになります。

『富士山反射』というワードを聞いたことがありませんか。 富士山にアンテナを向けて、電波を反射させて交信する技術です。 富士山だけではなく、山々を上手く利用すればさらに遠くの2エリア西部や3エリアと交信できる可能性があります。 西多摩で活躍されている6mマンに聞きましたが、交信したいエリアには直接アンテナを向けないそうです。 地元ならではのノウハウがあり、地道にアンテナ向きを変えて探るか、地元のアクティブ局から情報をもらうこともできます。 以前の6mはローカルラグチューによる情報交換が盛んでした。 自宅周辺の特性を知る情報源として、本当はローカルラグチューが活発になるべきだと考えます。

6mでは直接波と、反射や屈折、回析により伝搬を『地表波』と呼びます。 地表波は交信距離が長くなると信号が弱くなり、反射や屈折、回折の回数が増えると、さらに弱くなります。 このことから、グランドプレーンやダイポールなどの利得の低いアンテナを使うと交信範囲は広がらず、 逆に6エレ八木などの高利得のアンテナを使うと、交信できる範囲が広がります。 打ち上げ角もアンテナによって差が出ます。 とはいえ、何が何でも高利得アンテナを上げないと楽しめないというわけではなく、自宅や移動運用で上げられる最大限のアンテナを使えばいいと考えます。 最初はダイポールから始め、徐々にエレメント数を増やしていき、伝搬の経験を広げていくと6mのノウハウが深まると思います。

アンテナの場所と高さ

多摩地区は丘陵状の起伏はありますが、だいたい関東平野内にいるような気がします。 地図で細かく見たり、実際に散策してみると中小河川が関東ローム層を削り、微妙な高低差が生じています。 実はこの微妙な高低差が、6mでは影響してきます。

基本的にアンテナを高く上げることにより、電波の打ち上げ角が低くなります。 だいたい1波長である6m位の高さにアンテナを上げると、アバウトな表現ですが「そこそこ」の角度で電波は放出されるようです。 実際には最適な高さ調整をするのが正しいですが、高いほど打ち上げ角は低くなるという感覚で間違えはないようです。 そこでアンテナを立てる場所によって特定方向に傾斜があると、その方向に対して電波の打ち上げ角が低くなります。 傾斜は角度によって異なりますが、6mならば急な傾斜だと有利に働くようです。 この点については実験したことがないので、経験上の話と捉えてください。

電離層による伝搬.

スポラディックE層

この現象を知らないで6mの運用をしている局はいない位、6mではなくてはならない伝搬です。 突発的な現象で、だいたい5月~8月に発生します。 経験上のことで確かなことではないのですが、強いEスポが発生すると何日かは同じような発生をすることがあります。

1回の反射によって通信できる距離は400km~2,000kmと言われ、一番通信しやすい距離は1,600kmと文献にもありました。 したがって多摩地区からは西は3エリアから先、北は7エリア北部より先がEスポ範囲と言えます。 沖縄本島は1,500kmほど離れていますので、Eスポシーズンにはいつも沖縄の局のCQが聞こえているのも納得できます。

Eスポシーズンの初期には沖縄など遠方からの入感があり、梅雨の時期には入感するエリアが九州本土、北海道と近づいてきます。 さらに梅雨の最盛期には、3エリアや7エリア北部まで入感エリアが近づいてきます。 これは近距離Eスポと言って発生する頻度が少ないですから、400km~600km離れた地域が聞こえたら、集中して交信してください。

7月末あたらりからだんだん入感するエリアが遠方になり、最後は沖縄が聞こえてEスポシーズンは終わります。 その他、お正月前後にも弱いEスポが発生することもありますが、頻度は夏と比べると低いです。 これも一概に言えませんが、発生時刻は正午少し前と18時頃がピークと言われますので、ワッチする時間を集中することができます。

地表波では打ち上げ角を低くした方が有利ですが、Eスポの場合は逆に高くした方が有利です。 八木アンテナの上に打ち上げ角が高くなる垂直系のアンテナを上げられると、伝搬によって切り替えて使うこともできます。

スポラディックE層によるスキャッタ

Eスポは平面ではなく、複雑な形状のようで正規反射の他に乱反射もしています。 この乱反射がスキャッタです。 多くは正規反射の地域の局が強力に入感するために気づきませんが、正規ではない地域にも弱い電波は届いていて、弱い信号で応答があることもあります。

またEスポの終了時や、正規反射ができないような弱いEスポ時にもスキャッタは発生します。 入感する範囲は不定ですので、交信しにくいエリアと交信ができるチャンスでもあります。 入感する時間も短いことから、効率よい交信が必要となります。 また信号は弱いことから、利得の高いアンテナが必要になります。

F層によるスキャッタ

太陽活動がピークの頃は、6mではDX局が聞こえます。 東アジアや東南アジアはEスポによる伝搬も多いですが、オーストラリアなど南半球との伝搬はF2層によるものと考えます。

Eスポ同様に電離層は平面ではありませんので、乱反射します。 多摩地区から送信された電波が遠方で反射し、日本全国に聞こえるというケースもあります。 言うまでもなく不安定な電波ですが、交信しにくいエリアと交信ができるチャンスです。

その他

流星散乱や対流圏伝搬など、6mでは多くの電波の伝わり方を楽しめます。 これが6mファンを生み出す要因であり、またたくさんの伝搬を体験できることから入門には最適なバンドと言われます。 入門バンドと言っても、決して簡単ではありません。 6mの理解と経験が進むとともに、楽しさは広がることは間違えがありません。。

多摩地区からみたエリア別の伝搬.

1エリア

基本は直接波による通信となります。 通信が難しい地域としては、多摩地区から100kmを越える北関東北部と山梨県西部です。 これらの地域は標高がある場所で運用する移動運用がいますので交信は容易である反面、常時運用があるわけではありませんので聞こえたら交信しておきましょう。 山梨県内は反射や回折などによる交信となりますが、近いこともあり電波はそれほど弱くありません。

同じ東京でも、島しょは事情が異なります。 多摩地区より100km離れた大島支庁は問題がありませんが、三宅支庁で200km、八丈支庁で300kmほど離れています。 海上を渡る伝搬は延びがいいと聞きますが、日ごろから運用が盛んな地域ではありませんので、交信のチャンスを逃さないようにしてください。 小笠原支庁は1,000km離れていますので、Eスポ頼りとなります。 アクティブな局がいるため容易に交信できますが、いつアクティビティが下がるか分かりませんので、しっかり交信しておいてください。

2エリア/7エリア南部

基本は地表波による通信になります。 2エリアは西に行けは行くほど、7エリアは北に行くほど信号が弱くなり、アンテナの利得の差がでます。 多摩地区から名古屋市が250km位に位置し、愛知県や岐阜県、三重県は地表波による難しい交信となります。 福島県は250km範囲に入っていますが、標高の高い場所から運用する移動局を狙いましょう。 ときどき発生するスキャッタでは、積極的な交信をするといいでしょう。

オープンの様子は、50.010MHzのJA2IGY/b(三重県伊勢市)、50.027MHzのJE7YNQ/b(福島県福島市)のビーコンで確認できます。

3エリア

基本的に地表波よる通信になります。 反射や屈折、回折や到達距離が長いことから、届く信号は非常に弱いものになります。 近距離Eスポやスキャッタが発生して3エリアが聞こえたら、積極的に交信してください。 特に京都府や滋賀県はEスポが開くことが少ない、最近この地域を運用するアクティブ局が減ったなどの理由で難しさが高まっていると思います。

ビーコン局はありませんが、3エリアは運用局数が多いエリアにつき、ワッチしていればオープンが分かります。 大阪市を中心とした大都市圏は、都内同様の住宅事情から大型アンテナを上げられない、移動運用も難しいという理由から、交信が難しい地域であると思ってください。

4/5/6エリア/8エリア

基本はEスポによる通信となりますが、4,5エリアの東部は、地表波による交信ができることもあります。 Eスポが盛んな時期は、50.037MHzのJR6YAG/b(沖縄県糸満市)が聞こえ、しばらくしてから50.017MHzのJA6YBR/b(宮崎県宮崎市)が聞こえてくることがあります。 これらのビーコンが聞こえたら、真剣にワッチするといいでしょう。

8エリア概ね札幌市以より北部東部は、50.480MHzのJR8YPC/b(北海道石狩郡)のビーコンで判断することができますが、 道東やオホーツク沿岸だけがオープンすることもあり、しっかりワッチするといいでしょう。

Eスポが発生すると一番安定して交信できる地域ですが、Eスポの発生を早期に察知し、手際よい交信を心がけてください。 4エリアでは山陰、5エリアは高知県が比較的運用局が少ない地域です。 また島にある自治体での運用局は、移動運用に行きにくいという理由もありますので、聞こえたら確実に交信しましょう。 例として、西之表市などを頭に入れておいてください。

7エリア北部/8エリア南部

基本的にEスポによる通信となりますが、突然このエリアがオープンしたという経験はありません。 50.480MHzのJR8YPC/b(北海道石狩郡)のビーコンが聞こえだし、渡島半島そして津軽海峡を渡って7エリア北部が聞こえだしたという経験はあります。

いずれにしても運用局が少ない地域です。 渡島半島には郡がたくさんありますので、聞こえていたら確実に交信してください。

9エリア/0エリア

多摩地区の6mマンによると、9エリアが難しいと言います。 地形的にも長野県内の高山を反射や屈折、回折をして電波が届きますので、かなり微弱な信号になっていると思います。 0エリアも、9エリアほどではないでしょうが、同様です。

Eスポでオープンすることはない距離ですが、スキャッターで交信できる可能性が大きいです。 チャンスを逃さないようにしましょう。